最近とみに話題になっている、「メイカーズ」。
ものづくりの新潮流か?日本の製造業のプラットフォームを変えるのか?などなど、元来「製造立国」として存在してきたニッポン国の根幹を変革するような期待感を持ってメディア等で取り扱われることが多くなってきている気がします。
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他方で、論調が声高(扇動的)になればなるほど、シンプルに二つの視点で見ておく必要があるとRegainは考えています。それは;
- そもそも「Makers」と総称される活動って何なの?(主体の定義)
- 日本ではこれまでどうあって、今後どういう方向になるの?(主体を軸にマーケティング4P)
前段の1.について、ですが。クリス氏が「メイカーズ」において示す活動主体としてのMakersは、基本的には「普及価格帯に近づいた製造プラットフォームやファイナンス形態を前提として持ちつつ、従来”ホビー”として捉えられていた創作活動や大企業でしか難しかった試作・開発活動を、従来よりも手軽に実現する個人・小規模集団」と言えるのではないかと思います。
で、このひとびとの創作活動が、従来のホビーやラピッドプロトタイプ領域を超えるから熱いまなざしが注がれているわけではなく、そうした活動を支援するプラットフォーム(クラウドファンディング、FablabやFabcafeなどの認知度の向上、CEREVOの岩佐さんやBsizeの八木さんに代表される『小規模ものづくり』のある種の成功ストーリーなど)が整いつつある「現状」が、いわゆるキャズムを超える一歩手前にある状態にある、と。なんとなくイメージしていた「すぐそこにある未来」が実現しそうな感覚を持つがゆえに、ある種の熱狂で迎えられている、それがMakersという主体に対する日本での扱いなんじゃないかなあと。(もちろんアメリカで先行しているが故の「日本でも!」的な期待感も幾分かは入っているはずですが)
ただ、メイカームーブメントはキャズムを超えるか!?にあるように、実際にその方面に携わってきた方々は極めて冷静である一方、この潮流を「大企業的には」どうとらえればよいか- 市場・自社・競合といういわゆる3C- を考えようとした時、行き詰ってしまっているのが、メディアを扇動的足らしめている理由のような気がしています。この動きをどうビジネス化してゆくのか?ってことです。
つまり、現状は見えるけど方向感が不透明。
そもそも日本においては、純然たる「メイカーズ」の動きはありました。 父ちゃんは家の修理をするついでに、小さな息子に木のおもちゃを作ってやる。母ちゃんは娘が欲しいといってた服によく似た感じの小物入れを作ってあげる。長男のボクは超合金が買えないのでプラモデルを何とかかっこよくしようと身近な素材を使って仕上げる。。みたいな。
それが、現代では。極論すれば、ありとあらゆるサービス・商品が過剰に存在する中で、「自分で作ることの喜び」を見出す必要がなくなった状態において、個人が自分仕様にカスタマイズできる環境が身近にあったとてどれほどの需要があるのか? 。。つまり日本でいま取り上げられているメイカーズの動きは、80年代、モノづくり絶好調時代のノスタルジーを感じさせる動きでありつつも、他方でマネタイズを個人に対して考えた際にサービスとしては今一つ?という、市場としての定義が現時点で行いにくいことは特筆すべきことなんじゃないかと思います。
市場のとらえ方のむずかしさは、上記のような定性的なものの前提としての数値にも存在します。普通に一軒家のガレージにDIYキットが誇らしげに並び、週末には芝生を手入れしながら車をいじる、みたいなアメリカとの違いも十分に考慮すべきでしょう。アメリカは日本の2.4倍の人口、国土面積24倍(この手の動きの中心でもあるカリフォルニアがちょうど日本と同じサイズ)、4倍のクラフト市場規模(日本:約650億円)、6倍のDIY市場規模(日本:約4兆円)。 DIYやクラフト、ホビーに対する実需の動きをどう作るのか、従来「日の目を浴びにくかった」市場だけに、クラフト女子みたいな流れだけで進んでよいのかという、業界リーダーの悩みも多いはずと思います。牽引するのはアニオタ市場・とくにフィギュア市場と見られなくもないですが、3Dプリンタで大量コピーが安く早く提供できたところで単価は下がるしビジネス的には厳しい方向へ行かざるを得ないと。NG方向になっちゃいます。
その意味では、ラピッドプロトタイピングについては日本のメーカーが事業の再構築を加速する中で一定の需要は見込めそうですが、守秘義務や知財回りが受委託上はハードルになるのと、すでに台湾・中国などでOEM/ODMが先行していることとの棲み分けを考える必要があります。また、個人の創作という観点では何より技術者自身が個人やチームレベルで「作ってみよう!」という動きになりにくいのが日本の現状といえるのではと思います。(仕事でやってることを、週末までやりたくない、とか、そんな意欲を示すのはちょっと恥ずかしい、、など)。これがキャズムを迎えるためにブレークするべきもう一つの要素ですが、ブレークする為には「親も子も」的なの「ものづくり教育」を視座においた活動が不可欠になるでしょう。教育という意味ではメイカーズ活動を支援するスタッフの不足も無視はできません。電気もメカも、という人はエンジニアにもそうそういません。そもそも人材足りません。
なんだか長くなりましたが、ざーーっくり言うと、日本でメイカーズの動きが定着・発展するには、「こんなことができるよ」から始まって、「やり方知ってるよ」に至り、「こりゃすごい!」という商業的な観点での成功事例を継続的につくること、これが必要なのではないでしょうか。FablabやFabcafeの活動は「こんなことができるよ」をビジネスというよりFabのIRとして訴求する場所であり、その存在が脚光を浴びているというのは、くしくもメイカーズの動きが黎明期であることを象徴しているなあと。
テクニカルスタッフが一定量揃い、それらスタッフ自身が活動を通じて成功者であったり、「目指したい姿」を体現していて、 そして活動できる場所が少数ではなく多数存在していて連携を図ったり、有機的な活動を行いつつそれが「教育」へもつながる、、その結果として「ものづくり」ムーブメントが常にサステナブルな状態になるようなイメージがRegainにはあります。
・有名デザイナーやアーティストによる「ものづくり」の訴求によるユーザー層の拡大
・やりたい!と思ったときにできる為のプラットフォームの整備(リアルに固定店舗である必要はない。車に機材を積み込んで、モバイル・時間貸し的なアプローチでもよい)
・作ったものを継続的に売れる場所。クラフトとプロトタイプを包含しつつも楽天のように、個人も集団も商業ベースを常に意識できるプラットフォーム。
・顧客は成人男女だけでなく、子供も顧客。「教育サービス」を視座に。
これが形にできるとき、日本ならではのものづくり活動が日の目をあびてくるんじゃないかと思います。みなさんはどうお考えでしょうかー?
サービスライフサイクルの観点でいえば、この1年はサービス台頭の黎明期。来年がサービスとしての伸長期でしょうか。逆に言えば、来年を射程においたスタートダッシュをこの1年以内に行うことがこの業界を成功する秘訣なのかもしえませんね。