レビュープラスさんから献本いただき、読了。
ぼくは、生きのびようと思ったことはない。
むしろ、完全燃焼して命を全うしたいと願いながら、日々を、ぐうたらに過ごしてしまうことがある矛盾を孕みながら、それでもいいやと即時的な感じでけっこう、自分の「生」を認識している。だって人間だもーん。
ただ、生きのびる、というのは地球に生まれた生物として必須で最低限の要件でありつつも、その切実性を突きつけられると改めて厳しい言葉だなあとおもう。
「あなた、生きるに価する人間になりたいですか?」みたいな問いかけだと思う。
しかし、である。
とりわけ医療・介護系のベンチャーに身を置くぼくからすれば、「生きのびる」とか「キャリアステップ」のような考え方がどんどん薄れてきていて、誰の尺度でもなく、これからは「個の独自性」が社会にどうやって貢献をもたらすことができるのか、充実感とは何か、とか、より内面に向かって考えることが増えてきた環境のなかで読み進めると、本書は「振り返り」という意味ですごく有意義な内容が多かった。
生きのびるとはどういうことなのか。
本書では、個人をとりまく変化として「5つのパラダイム」をいわゆるフレームワーク(氷山)として設定しながら、それに対する「生きのびかた」を論じる内容になっている。
具体的に言うと;
- 「代替」:過去のあるものを全く新しい何かで置き換えてしまうこと
- 「新芽」: これまでになかった全く新しいものが生み出されること
- 「非常識」: これまでの常識感が180°覆ってしまうこと
- 「拡散」:ある分野に留まっていたものが一気に社会に広まること
- 「増殖」:ある特定のものが拡大して世界を覆う様になること
つまり、環境要因として起こりうるこれら5つの「迫り来る氷山」に対して、どうやって生きのびたらいいのか、という内容なのだが、いまのぼくたちは企業に属する身として、個人としても職業人としてもこれら5つの要因に対応できる能力を身につけなければならないのだ、という警鐘を、事例とともに示してくれている内容と言ってよい。
そして、5つの氷山だったり、その事例は、しごくもっともな内容なのである。
ただし、である。迫り来る「氷山」にたいして、読者が得る「切迫感」がちょっと少ないなあと感じさせる点がちょっぴり残念。
よくわかるのだ。
わかるのだが、5つの氷山は現代固有のものでもないし、本書に示してある事例は最新のものが多いので「そうかー、そういう”切り方”ができるのかー」と参考にはなるのだが、それ以上にならないのは、編集力なのかもしれない。
40を過ぎた、「おれはこうして生きてゆくのだ」と決意を固めたおっさんが読むには少々ものたりない。
30代の、脂の乗り始めた時期なら、「なら自分はこう変えて行こう」と意を新たにするかもしれない。
20代で、よくわからない(本書の内容を)の時期だと、まだ手に取るには早いかもしれない。
・・閑話休題。本書は、個人・地域・社会・世界が大きく変容するなかで「自分」がどうあるべきかを、原則的に示そうとする、ある種の意欲作だと言えると思う。
そして意欲作だからこそ、なのだが、ぼくの読後感はちょっぴり厳しいものになったことをお許しいただきたい。
ルールがあれば脱出できるわけではない。
そこから脱出したいと願うひとは、いつの時代も、その人の根源的な価値判断に基づいて行動を起こすはず。それがなにか、を気づかせるような、フィードバックループをつくるような結論であれば「腹落ち」したのだろうと思う。
参考書として有用な一冊。