アキよしかわさんってだれ?
「国民に平等に医療を提供する」という発想が下敷きとなって生まれ育った素晴らしい日本の医療制度が、いま、金属疲労を起こしている。
(第1章:日本型医療の危機)
スタンフォード大学教授時代に7年間率いた医療経済学講座から、後に有名になった教え子が国内外で数多く排出されており、結果として医療経済学分野では名博士(名伯楽)と言われている、医療従事者だったら一度は聞いたことがあるかもしれない方である。
2010年に書かれた本書だが、「高齢化」がすごい勢いで叫ばれ、そして進むことを実感する中で改めて読み返してみて残しておきたいと思ったので読み直し。
ぼくらは病院、というか医療システムに無自覚すぎるのか
普通に生活を送るビジネスマン、それもおそらく40代くらいまでは病院の種別なんてあんまり気にしないはずだろうな、と思う。両親や家族が3大成人病にかかって初めて、「病気による入院」という突然の環境変化や、そのプロセスをすこしばかり把握する、そんな状況なのではないだろうか。でも、こんなこと、ニュースなんかを見て考えたことはないだろうか。
なぜ日本のがん患者は最新の薬を使えないのか? なぜ日本の病院は、赤字なのにつぶれないのか?
そこから、調べてみてもらって病院への基礎的理解は進めてもらえると、読みやすいと思う。いちど関心をもって調べ始めた人には、グイグイと惹きつけられる「引力」がある。それは、2016年になった今でも色あせないのは、アキさんの筆力と、緻密な論旨の運びだと思う。
本書は急性期病院のアメリカ・日本の比較を通じて今後の主にDPCをテーマに、医療システムを比較検討するかたちで病院のあり方を論じる。
ただ、著者を良く理解していないと少なからず誤解を招くかもしれない。
こちらを読むと少しは理解が深まると思う。
当時のスタンフォード大学時代の教え子であるジェイ・バタチャーヤ(Jay Bhattacharya)氏(現在スタンフォード大学医学部経済学科准教授)、ビル・ヴォート(Bill Vogt)氏(現在ジョージア大学経済学部准教授)が語る、著者についてのコメントも興味深い。
スタンフォード大学と言えばYahooやGoogle、YouTubeを生み出した情報活用を研究する世界一の大学であるが、医療においても「Health 2.0」と言われる医療ICTを利用した新しい医療システムのあり方を世界に向けて発信してたりする。その「Health 2.0」発案者マヒュー・ホルト氏はアキさんの教え子である。
いわゆるビジネスマンからすると、「へーこういう人がいるんだ」という印象ではないだろうか。それだけでも面白いけど。本書のなかでは、日米比較による改革の必要性を説くだけでなく、日本人に対するメンタリティの変革を促す箇所もあって、こういう箇所は非常にぐさりとくる。
治療技術の進化や、技術革新は時として想像していなかったような医療費の高騰を招くことを、政策立案者は理解し、それを国民に説明していかなければならない。国民はそのような事実を理解し、決断せねばならない。治療技術革新の恩恵の下、我々は個人として、社会として、その恩恵をどのように受け止めてゆくのかを考えなければならないのだ。(中略)医療費は上昇する。なぜなら技術は進化するからだ。「医療費は安ければいい」という短絡的な発想では、これからも高度化する医療を国民全員の財産として享受することそのものが論外となる。
(第5章:日本医療の新しいビジョンを描く)
ビジネスマンだったら、病院の体質・構造を明確に指摘する、こういう箇所は「なるほどね」と思わせられるだろう。
病院経営が先天的にコストに気付きにくい業態だからである。(中略)現在の国民皆保険制度からの出来高払いの環境下、病院経営者は収入を最大化することに努力してきた。会社で言えば、新入社員の時代から、それを仕事のやり方として教わってきてしまったようなものである。歴史的な経緯を考えれば、コスト感覚が他業界に比べて未発達であることを本人達の咎として責めるのは難しい。
もう一つの理由は、サービスラインが非常に多く、コストの発生パターンも非常に複雑なため、把握すること自体が困難であるという、病院経営独特の難しさである。B to Cでビジネスをしている製造業やサービス業なら、提供している製品やサービスはどんな大企業でもせいぜい数千といったところだろう。しかし病院では、DPCのコードで数えると、1病院で対応している診断分類は1000にも昇ることが珍しくない。日本のほとんどの病院は、従業員の規模的には中小企業である。職員が1000人にも満たない組織で、それほどのサービスを並行してこなしている病院がそこここにあるのだ。
(第4章:DPC時代に必要な意識改革)
変わりゆく日本の医療システムの指針になる一冊
本書は、日本の外からDPCを見たもので、国内からアメリカを見るような視点ではない点が、非常に「斬新」なのだが、おそらくこれからはアキさんの指摘するような方向性で色々な改革が進むのだろうと医療業界に身を置くことになったぼくは、肌身で感じる。
ただ、アメリカの病院間の競争は、医療費の高騰をもたらしたがアウトカムが他の先進諸国並みなので、結局は膨大なムダがあるのではないか、であったり、州別の詳細な分析も期待したいところ。アメリカだって現在の医療システムが完全であるわけではないのだ。日本は日本独自の医療システムを、グローバルな競争力を持ってどう作れるかが本当に問われるこの20年なのだろう。
この本を読んで、見直そうと思ったのはこちら。多面的にいろいろ捉えるとより理解が深まる。
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http://www.kenporen.com/include/outline/pdf/chosa22_03.pdf
今後どのように日本の医療提供体制の再編を進めていくべきか
国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授 高橋泰
日慢協BLOG —- 日本慢性期医療協会(JMC)の公式ブログサイト